フネ/yumekyo
巨大な 鉄のフネは嵐の中で横揺れを繰り返して
日が差し込めばあちらこちらに錆も目立つというのに補修されない
老人はいまや次の目的地すら知らない
いったい このフネはどこに向かっているのか
艦橋が複雑すぎて艦長室にたどり着ける者は誰一人居ない
甲板に張られた分厚い板があちらこちらで腐って穴が開き
日々勤務にいそしむはずの若い三等船員たちの過半は
罐炊きも見張りもイヤだと言って
ふんだんに積まれた密造酒と保存食の干し肉で酒宴を開き遊び呆けている
甲板 あるいは 船底にうごめく三等船員たちは
獰猛な嵐のたびにロールアンドピッチを繰り返すフネに翻弄され
かかとを踏みしめて立つのが精一杯で
艦橋を駆け上ろうとはもはや思いもよらない
水平線の向こうに
いまだ新たな大陸は見えない
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