1872年 足の裏/長押 新
った。見つめ合った。それでも恋が始まる淡い期待は捨てるべきだ。ヘローと右手をちらつかせ少年が一歩。鰐は、にゃあー、と、うまく喉を鳴らして歯を見せ付けた。
鰐はにゃあ、とないたのだ!
ひどく血とチヨコレイトと財布の匂いがして少年はすぐに痛みを忘れた。もはやそれはペインではなく高鳴る鼓動に煮えたぎる笑い声だ。
奇声ではない笑い声だ!
わらいごえなのだ!
半分、半分、セニョール半分。少年の右側から歩いてくる白いセエターがみえている。怪盗は善意なのか悪意なのだか分からない顔をしている。細い暗い路地でそこは一段と細い。怪盗は少年に自分の履いていた左側の靴を放り投げた、三角にそれは半回転してなげられた。セニョール、半分。春になって足が生えた時、足の裏は靴の底よりやわらかいだろうから、どうぞ。鰐もまた解答だった。怪盗はまた、右足事サンダルを盗んだのだった。
少年は、黙っていた。
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