耳の人間/シホ.N
ピルキュルと
遠く鳥の飛び交うのを聞く
重ねて飼い犬らの間歇的な
へだてて呼び合う吠え声が
窓は笛の穴ともなって
聞かせるつよい南風
〈なにものでもない耳の人間〉
例えば牛蛙のバス、生き物らの
重厚なリズム
人びとの鳴き声などなど
さまざまな瑣末なハミング
暮れつつ、あるいは明けつつあって
移りゆく薄闇の動く物音
〈嗚呼ほんとうに光は要らない〉
同じ時刻に同じ柱が
きし、と軋む闇のなか
にわかに高まっては鎮まる
ざわめきの伝う脳の内
チガウ、チガウとさざめき
声なき声
〈ね転がって足りている耳〉
ナニモ要ラナイと声なく聞こえ
むしろそこにこそ露わな渇え
夢見みたいな意味もありげな色たちと
形象たちを耳に集めて
結晶する瞬間を
とらえる耳の人間
戻る 編 削 Point(3)