耳の人間/シホ.N
 

ピルキュルと
遠く鳥の飛び交うのを聞く

重ねて飼い犬らの間歇的な
へだてて呼び合う吠え声が

窓は笛の穴ともなって
聞かせるつよい南風

〈なにものでもない耳の人間〉

例えば牛蛙のバス、生き物らの
重厚なリズム

人びとの鳴き声などなど
さまざまな瑣末なハミング

暮れつつ、あるいは明けつつあって
移りゆく薄闇の動く物音

〈嗚呼ほんとうに光は要らない〉

同じ時刻に同じ柱が
きし、と軋む闇のなか

にわかに高まっては鎮まる
ざわめきの伝う脳の内

チガウ、チガウとさざめき
声なき声

〈ね転がって足りている耳〉

ナニモ要ラナイと声なく聞こえ
むしろそこにこそ露わな渇え

夢見みたいな意味もありげな色たちと
形象たちを耳に集めて

結晶する瞬間を
とらえる耳の人間


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