その立体はわたしたちの団地を支配していた/リンネ
たこの団地のこの家の、いたる隙間を埋め続けなくてはいけないのか? 家の中ではあかんぼうが生まれていた。ぞっとするほど泣きわめいていた。母親は抱きかかえて言葉をかけていた。その言葉に意味はなかった。そしてそのなきごえは閉じられた立体の中で反射し続けていた。どこにも逃げ場はなかった。それでいて外には広びろと空が広がっていた。空は耐えがたいほど広びろとして澄みきっていた。砂はどこにも見えなかった。広い空のどこをさがしたって、一粒の砂さえみつからなかった。天井が少しずつ低くなっていた。低く低く。そしてあかんぼうは泣きやまないのだ。母親は言葉をかけるがその言葉に意味はないのだ。低く低く。天井が迫った。フローリングがせりあがった。壁が近づいてきた。あかんぼうは泣いた。母親の言葉に意味はなかった。わたしは立体になった。
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