二十歳の夏/長押 新
 

この海
この冬の海
あの時は夏の海

友人の死を悲しむまま
私の真夜中に車が走って行った
ヤンキーと私たちだけが
盆の海の駐車場に座っていた
彼女だけは遠くを見るように
立ったままだった

昼間には賑わう海岸も
夕暮れにはカップルが
真夜中にはヤンキーと私たちが
言葉なく佇むにほかなく
私たちはあそこから生まれて
こうもいきいきしているとして
あれが母には見えなかった
隣に座る彼女と友人とそれから昔の恋人のほうが
あたたかく優しく心地いい

灯台と煙草の火だけが
ぼんやりとした輪郭を照らして
直ぐにでも帰りたかったのに
砂の入ったサンダルが重い
なんだかお前ら死にたいのかと
尋ねられてる気がして
私たちはそろって首を振って
互いの顔を覗き込んだ
もう幼さのほうが少なくなった
互いの顔

この海
この冬の海
あの時は夏の海


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