自分の命/mizunomadoka
 
死期を悟ったと言って
父は仕事を辞めた
これからは好きなことだけして暮らすぞと言って
山奥の民家を買い
池と鶏舎つきだぞと笑った
週末に会いに行くと
家の改修を手伝わされた
鳥の世話も鍬を持つのも初めてだった

父はアルバムの写真を全部取りだして
家中に飾っていた
お母さんや私の子供の頃ばかり
池に菖蒲を植えた夜、「さみしくないの?」ときくと
「さみしいさ」と言って
やたらお金を渡したがった
「いらないよ。仕事辞めてどんどん元気になってるんだから
これからもいるでしょ」そう言うと
「そうだな」と頭をなでていた

次の春、父がいなくなった
ナイロビに行っていた
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