とむらいの逸話/シホ.N
 
て誰も答えないので
仕方なく私が
この人のおじいさんだと教えてやった

死体は背中を痒がって
手を伸ばしても届かないので
  「掻いてくれ、掻いてくれ」
と身をよじっていたが
皆は聞こえているはずなのに
それでも知らんぷりで話しているところは
少し滑稽な感じがするもので

それでもまだ死体は
  「掻いてくれ」
と言ったが
皆がなお無視しているのが私には
いたたまれない気持ちがして

私に向かって言ってるのでもないので
掻いてやらずに話の輪からすっと抜けて
その場をはなれたわけなので
そのあとのことは知らない   
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