レシートと店員/長押 新
それなら洋介君はそれをどこに捨てたのだろう。返して、と言っても、レシートを持っていない、返品には必要なのに、見つからない。ごみ箱だろうか。それから、落とし物を探した。店員が言ったのはこのこと、だろうか。
五、
店員が万年筆を私にくれた。いつか、無くした万年筆みたいだ。だから、言ったんだ。そういった店員の口からは小さく、愛と聞こえる。レジは空いている。店員が返品された商品を片付けるときにごみ箱から見つけた、それ。店員とのキスに愛ちゃんの味はしなかった。洋介君の口の中も私の味がしないということだろう。私の味がする、十円玉の匂いだ。一円ずつ足りない、レジ金。
六、
伸びた腕に掴まれて、振りほどけたのは縦結びの靴紐だった。バイト用のスニーカーは、汚れている。好きだよ、の後の声はキスの音で聞こえない。私はポケットに手を入れる。私が落とした愛を拾ってしまったという店員が、私を好きだという。洋介君の家にあるプランターの中には私の名前のレシートがあるはずだ。きっとそうだ。それを、取りに行きたい。鍵が閉まっている。
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