魚類、落つ/雨伽シオン
 
ソメの死に甘んじればいいのだろう。
「また死に損なっちゃった」
 呟くと、男が怪訝な顔つきで私を見た。つまらない男。備え付けの小さな冷蔵庫から無糖炭酸水のボトルを取り出して一口呷る。精飲を拒んだ喉を電流が駆け落ちていく。
「半分死んでて、半分生きてるって、どういう状態だと思う?」
「ゾンビじゃねぇの」
 何とも色気のない返答だ。私は炭酸水のボトルを激しく振って男に投げつけた。抗議の声を上げる男を無視して衣服を整え、ドアノブに左手をかける。右手には旧式の携帯電話。最寄りの水族館の電話番号を打ち込み、通話ボタンを押して部屋を出た。
「ダルママグロを一匹、引き取ってくれるかしら」
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