時間の流れを動力とした遠心分離装置の性能とその顛末/Six
 

   と押し続ける
   それはさながら焼印の強烈さで
   Aさんの肌に痕を残す予定だったのだが
   所詮夢の中の出来事なのでそれもままならぬ
   Aさんの肌にはただの赤いインキが
   ぺたぺたとたくさんついているだけ



 冬になって。

 Bさんは
 消しゴムの判子と赤いインキを取り落とした
 これは故意ではなく
 単にBさんの手が疲れたからなのだが
 遠心分離装置は回転しているので
 インキは盛大に赤い液体を撒き散らしながら
 どこかへ消えてしまった

 消しゴムの判子はリズミカルに跳ね回っている
 表面に彫られた逆さま文字の
 「愛しています」
 を上に、下に、右に、左に、
 くるくると向きを変えて
 赤いインキとは別の方向に
 これもどこかへ消えて行った

 奇妙な夢からようやく抜け出しながら
 Aさんは、朝が来たと思う

 「愛しています」

 の紙片は今はもう
 一枚も見当たらない

 しかしAさんは
 いまだにこの車酔いに似た眩暈には
 なかなか慣れることができないままだ

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