幻薫/アラガイs
行き交うのも そう長くは続くまい
軒先の下に屯する乱れた草地の生え際からして彼女は子供の居ない留守には暇を持て余して善からぬ想像などをしているに違いないと
たまに庭先を覗き込みながらひとり勝手に妄想に耽ってみたりはするのだが
それにしても一度母親のかわりに回覧板とやらを持って渋々その仮住まいを訪ねたときの
庭先に植えたライムの木陰で大きな麻の帽子を深々と被り薄い布のスカートを挟み込むようにしゃがんだまま木椅子の上に並べた銀細工を(いまちょうど加工していたのよ)と言わんばかりに微笑みながらノースリーブの脇の下を滴り落ちる玉虫色に輝いた汗を拭う
そっと後ろから抱きしめるようにライムの匂いは首筋から風にひろがってゆく
眩しく揺れた午後のひととき
淵に色どられた化粧細工のその誘惑の薫りをたまに(ふっ)と思い出したくもなる
洞穴からひとり街を眺めるように淋しさを敬う
解脱の匂いに飽きた脳裏を霞めるこの不如意に訪れる恍惚と(ムラムラ)を
わたしは呵責という絶え間ない(いろは)の付いた団扇で打ち消しては煩悩の火は煽る 。
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