夜ノ目/かいぶつ
ている
硝子の向うには背中を向けた制服姿の男が一人
私は扉を力まかせに叩く
「開けろ!
今すぐ列車を止めるのだ!」
私の声は男に届かず
虚しく辺りを響かせるだけだ
男は金色の腕章をてらてらと光らせながら
整然たる身の構えで
何もない壁に向かって人差し指を向けている
私は扉の破壊を決意する
蹴破ってやろうと助走をつける
すると男は腕を下ろし
制帽に手を掛けながらこちらへ体を傾けて行く
そしてゆっくりと顔を上げ
私の目が男の顔を捉えたとき
私は愕然とした
男には顔が無かった
輪郭から中心に向かって全てが刳り貫かれ
目鼻や口の代わりに
そこには静かな海があった
すると一変、緑溢れる森となり
男の顔の中から一羽の野鳥が飛び去った
そしてまた一瞬のうちに
男の顔は都会の高層ビル街となり―――
車内放送が駅の到着を告げる
「マモナク、シュウテンデス。」
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