空樹/木屋 亞万
不思議と誰も立ち止まらない
自転車の後輪がゆっくりと空回るだけ
前向きなことだけ話、自信に満ち溢れていて
いつも笑顔で、何も怖くない、余計なことは考えない
決断力があり、苦しくても粘り強く耐え抜く
そんな人間であれたら良かったのに
丸めた背中がしゃっくりの度に揺れて
鼻をツンと淋しさが抜けていく
過ぎた呼吸が苦しくなって、手足が痺れていく
顔を上げたら、木の葉が揺れた
風だったのかもしれない
何か滑らかなものが頬を撫でた
いくつもいくつも
それは空から舞い降りた
透明な樹木だったかもしれない
風の尻尾の毛先だったかもしれない
もう死んでしまった人の優しい
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