ガラパゴス諸島に行かなくてはならない/亜樹
ガラパゴス諸島に行かなくてはならない。
彼が生きている間に。
彼はきっと、清潔なゲージの中でキャベツを食べている。
その眼が私を映してくれる間に、私は彼に会いに行かねばならない。
聞かなくてはならないことが、ある。
「ねえ、ジョージ」
「ひとりぼっちって、どういうこと?」
私は、確かに一度
それを知っていたはずなのだ。
おかあさんのおなかの中で
羊水に満ちて
肉の壁に囲まれた
あの狭い狭い世界の中で
確かに私はひとりぼっちだった。
なのに、今、
もうあの頃のことは何一つ思い出せない。
放課後の教室や
高い木の上や
赤信号の交差点や
病院の屋上で
立ち止まって空を見ても
もうあの頃のことは何一つ思い出せない。
「ねえ、ジョージ」
「ひとりぼっちって、どういうこと?」
私がひとりぼっちだった頃
あの頃の何百倍も広いこの世界で
私に答えをくれるのは
多分彼だけだ。
なので、ガラパゴス諸島に行かなくてはならない。
彼が生きている間に。
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