ノスタルジックな軽便鉄道の駅頭にて/石川敬大
 

 あっけなく
 ぼくの透きとおった身体を
 通りぬけてしまった


 それっきりだった


 木の間がくれのむこうのほうで
 赤色灯がみえた
 その淋しげな信号の点滅を
 遠ざかる列車の尾灯だと勘違いしたのは
 もうひとりのぼくのどんな悪企みだったのだろうか

     *

 かつて草を靡かせ風を切って列車が走った
 弓なりに延びる桜並木に
 熟柿の夕陽が沈んでゆく
 さいしょの星もまたたくようだ
 ベンチに転っていた錆びた鉄杭のあの川映えのなかで
 ぼくは
 ただボーゼンと
 たちつくしているだけだった





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