映画を見にいく/Raise
 
十二のときに好きだった音楽の
一節さえも思い出せないのはなぜだろう

おしながされていく
おしながされていって
ついにはどこか 音楽のように 弾けて

オーディオの音がひどく頼りない
今座っている椅子やストーブ 壁 陸地
ひどく頼りない 手ひどく

――音楽は 我々の耳を通り抜けたあと
小さな石ころの洞窟へ運ばれ
そこではうつくしい水晶のなかで音が眠り
弾け 放たれ また石に吸われ 眠り
響いた ひどく頼りなく そしてまた 強固に

私は小さな映画館のシートに座り
途切れてしまった音楽をじっと見ていた
今にも自分が消し飛んでしまいそうだった

映画の題名は 私の空想 といった
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