アンビバレンス/ayano
 
なくなっていた。白よりも赤を選んでいた。赤子に通したナイフを右目の下に刺されたときはまだ景色が見えていた。右目からは重い重い鎖のような血が咲いた。左目からは水が出て、目の前には太陽があった。そこに向かって伸びようとした。頬に撫で付けられる赤を感じながら、ホットケーキの上を滑るメープルシロップを想像し腹を空かせた。しかし体温を感じたのは左目だった。太陽は赤よりも透明を選んだ。吸い取った涙を、いとも簡単に精液に変え、頭からかけてくれた。右目が見えるようになる魔法みたいだった。再び飴玉が体内に生まれ、右目がぽろりと落下した。それから君は首筋よりも右側を愛し、胸を踏みながら、それを齧った。がりりと変な音がしたけど、急に襲い掛かる眠気には勝てなかった。ゆっくりと体を飛ばし、夢遊しないように自分なりに閉じ込めた。目を覚ますことはなかったと後々聞かされ驚きを隠せないでいたが、それでも永遠と捕食してくれていた君のことも聞かされた。最後の最後に左目を食べてくれたらしい。嬉しくてまた、死にたくなった。






戻る   Point(4)