笑ってよ/小林 柳
 
少し怖い。知るはずのなかった人が、早口で叫ぶような気がする。名前を聞かれて、どこかに呼ばれるような気がする。
 その声は、別の世界から聞こえてくる。声の向こうでは、短くて鋭い話し声と、金属のぶつかる音がする。着信のランプが赤く、目の前で明滅する。
 電話を切ると、暗い台所に立って、シンクのふちに手を付く。窓の外はまだ、かろうじて明るい。ボウルに張った水を覗きこむ。黒い塊が映る。
 りりりりりん、と音が鳴った。


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