千手観音像/なき
ったようだった。
残照。言葉で区切られることに感動を覚えた輝くあの日の痛みを伴う冬の日差しが温もりの色だけ保って静かな金色の千手観音像の鈍く光るのを忘れた忘れかけたこれから忘れる忘れもののように見つめると目蓋を伏せた人間でないものの顔は私の皮膚に人間として映りノイズを生み出しながら生き生きと揺れ私の両の目が千手観音像の顔に忘れられた静かな金色の温もりを捉える度にすりかわるすりかわりすりかわれば笑い声さえもあげられない静けさが私を満たし満たされ笑ってなどいない千手観音像の口元がかすかに微笑むのを知ることを知っていたような光を背中にえる。
空は空気は私は私の皮膚は私の喜びと怒りの在りかは隔たれたまま空を映す穏やかな川を映す目の色は変わらぬまま来週の昨日は晴れるといいのにとつぶやく私を置き去りにして私の願いに置き去りにして置き去りにした願いが私になる度に東京行きの新幹線が通り過ぎていく駅に失くしたたはずの靴が片方ちらりちらりと踊って私の皮膚は少し汗ばみ凍りになっている親指の肉と爪の隙間の液体が温まっていくのを感じている。
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