幽霊筏/北村 守通
で降りました
一人はその東で降りました
一人はそこから北東で降りました
一人は南南西で降りました
一人は
一人は
一人は
一人は
何人だったのか忘れましたが
結局のところ
私だけでした
彼らあるいは彼女らが
どの様な顔のつくりをしていたのか
今となっては思い出す術もありません
彼らあるいは彼女らが
どちらに向かって漕いでいったのかは
結局のところわかりません
私が漂着した
この島が
どんなところなのかよくわかりません
けれども
筏はそのままに
使い慣れた世界はそのままにしてあります
世界には
狭さが必要だったのです
私が漂着した
この島で
芝生に寝っころがるのは
あまりに広すぎて
隠れるところも無くて
怖いことなので
今では
芝生には近寄らないようにしています
けれども
やっぱり
青々とした芝生の上で
寝っころがって
無防備な大の字を描いてみせた
日が
確かに
確かに
あったのでありました
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