新宿にあるあの店のコーヒーを飲みに行こう/虹村 凌
を噛みきる度胸も無く
惨めさをぬるい缶コーヒーで流し込む
僕達の日々にあいつがいないと言う悲しい事より
知らない影の形の無い息苦しさより
笑うしかない寂しさをまだぶら下げて
辛い煙草に火をつける
洗濯物が風にあおられてバタバタと泣いてる
明け方の静まり返った街に
新聞配達のバイクの音がバタバタとこだまする
乾いてこびりついたコーヒーがマグカップの中で笑う
故郷も無ければ
帰りたい街も
帰りたくない街も無くて
限界も知らないし
精一杯も知らないまま
吉祥寺の街に突っ立って
笑う
今度の休みに
伊達と酔狂だとうそぶいて
僕達の為の指輪を買ったら
市役所に行って婚姻届を出そう
紙切れ一枚に笑って
紙切れ一枚に泣こう
絵本を開いたような幸せに笑って
絵本を開いたような幸せに泣こう
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