華と蜜/相馬四弦
 
桃を小さく切り分けて ふたりで食べた

泣き疲れた声で 甘いね、甘いね、 と繰り返す

どこに咲いているんだろうね 本当に

舌先がしびれるような錆びた味

─白いの、真っ白だったのよ、とても綺麗ね─

唇の端から糖蜜を滴らせながら

貴女はちいさく笑った

濡れた手ぬぐいで拭ってあげようとすると

私のその手の甲に頬を寄せて

そのまましばらく眠りに落ちる

去来するものの刃を避けることが出来ずに

身動きできなくなった私のみすぼらしい横顔が

部屋の隅で開かれたままの三面鏡に映されていた

どこに咲いているんだろう

カーテンの隙間から外の景色に救いを求める

この世で白いものは二つしかない

貴女の肌と

人の世の空






戻る   Point(0)