絹をなでる/せかいのせなか
ずなのか気持ちの問題なのか、きゅうにわかんなくなってさ、いまたしかめてみてる
うつむきかげんに話す花火ちゃんの表情は
戦場に出てゆく兵士と実験中の科学者のまんなかくらいにいて
まつげが頬に長くうすく影をおとしている
ワンピースからつきでた膝のまわりに
古備前や伊万里やわたしにはよくわからない陶器がさんさんと砕けて
お骨みたいだ
花火ちゃんはほんとうにすきなお皿だけわったんだなとおもった
ねえ、とりあえずさむいよ
なにかあたたかいものに着替えてらっしゃい
わたしがうしろから軽く抱くと
彼女はのどになにか詰めたような角度でうなづく
このうちにはテレビがない
花火ちゃん、わたしたちはまだだいじょうぶだよ
声にはださず
絹をなでるみたいに彼女の髪にふれる
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