イッチャの背中/せかいのせなか
イッチャは鳥の啼き声をあてるのが上手だった。あれはコサメビタキ、あれはヤブサメ・・・。わたしはそれがどんな鳥なのか知らないままに、イッチャの背中に向かってあやふやな相づちを打つのだった。そして、相づちを打ちすぎたわたしの根気が地面に食い込みそうになるころ、彼はようやくこちらをふりかえって、おしまい、唐突にそう言うのだった。そして、そのときの顔はいつだって例外なくさみしそうだった。
イッチャという呼び名は本名である一柳からきている。ほんとうはヒトツヤナギだけれどみながイチヤナギ、イチヤナギと繰り返すうち、いつのまにかイッチャになった。なに人かわからへんかんじがええねん、とイッチャ自身もま
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