黄昏/岡部淳太郎
 
めに
開いていたものが
そのように開くと
地上では人々のひとりずつの
孤独な胸の中で何かが押され
それでみんな
またひとつのものが終ったことを知るのだ
そして消えてしまった光の
粒々はいつの間にか
人々のひとりずつの
孤独な手の中に握られている
それらがあふれて
それらで空が満ちていた時には
気づかずにいたものが
わずかずつ人々の中にある
あまりにも眩しく輝くものは
それが弱く小さくなった時に
はじめて見つけられる
空が開かれていた時に
あつまっていた光
私たちもそうして
あつまっていたはずだった
それがいまではこんなにも
ひとりでいる
昏さの中でたがいが
わからなくなっているから
私たちはそれぞれに
名前をたずね合う
小さな粒々のようなひとりを
胸の中で握りしめる

(註)夕暮れ時を表す「黄昏」という言葉は、日が落ちかかって暗くなり、道行く人の顔がわからなくなって、「誰そ彼」と言い合ったことを語源にしているとの由(三省堂『新明解国語辞典』より)。



(二〇一〇年十一月)
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