ままごと/高梁サトル
いたあの日
(あなたには問題がある)と
閉じ込められた暗い部屋
本しか入っていない鞄をひっくり返されて
ふで箱からこぼれ落ちた鉛筆の
折れた芯を拾い集めたら血の匂いがしたから
これは怪我なのだと思った
けれどどこにも傷跡がなくて
ちいさなわたし
帰り道の曲がり角を曲がれずに
足を用水路に突っ込んで
人の家の塀をよじ登って
制服がどろどろになればなるほど
軽くなる足取りに泣きながら
(ナイフなんて持ってない)のに
みんな同じ世界はうつくしいから
ちいさなわたし
脆弱な記憶をかき集めて
嵐の中で鉛の方位磁石だけ見詰めて
それでも
きよらかさを信じていたくて
(あれもこれもそれもいらない)のは(ぜんぶほしい)と同義語だって(パパもママも娘もいらない)と言ったら、誰もがかなしそうにムリだと笑ったの。
ままごとだって。
わたしはわたしの模倣を繰り返して何処にも行かれない。
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