褪せてゆく秋の或る一日/吉田ぐんじょう
拾い上げた指先に力を込めると
容易く風に溶けてゆく
・
夕暮れ
町はビルも樹も電信柱も
顔のない影へと変わってゆく
歩いているひとびとは
よく見ると
生身の人間から切り離された影法師で
彼らは音のない道を
ぺろぺろと踊るように進んでゆく
空には
アルミホイルで作ったような
満月が昇りはじめ
路傍のそこここには
影法師の持ち主たちがひっそりと横たわり
街灯がぼんやりと光を投げかけている
わたしの足裏からもじょじょに
影法師が剥がれてゆく
明確で透明な感触が伝わってくる
また今日が終わってゆく
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