日常の渋滞/A道化
 
向かい側からバスが走って来ていた。中指一本だと思った。
 つるり。おわり。
 ハンドル操作を誤るって、そういうこと、簡単なことなのだと気がついた。 それを思い出しながら、私は渋滞の一部になっていた。しょうがないと思えば殆ど運転作業のない渋滞では車の中はとても個人的で快適な空間だ好きな気温好きな音楽大声を上げても殆ど外からはわからないだから私は声を上げるただわーとかあーとか叫ぶ、けれども粘ついた泥の中にとらわれているような感覚に取り付かれてしまえば車なんて完全にお荷物だ晴れているのに私を小さく閉じ込めてフロントガラスの風景で夏を強いてくるドアを開けて飛び出したら本当はすっと肌を冷ますような空間に
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