ライオンの爪あと/乾 加津也
鹿なわたしたち四人は
次の一服の自販機を賭けて
だれが最初にへたばるかを予想した
外階段を
気合の掛け声いくつもかぶせて駆け上がる
本能におもむく姿も猛々しく
これが 崇高さ? 汗は
かくより先に飛びちった
それがあるとき
車窓から
にやけた口元が鉛をはいた
「オレ このバイトしてるときだけホント人間だとおもうよ」
お客さまから心からの「ありがとう」をもらい
帰りのワゴンに揺れるわたしたちに
ひとこえ吼えたのかどうか
そのとき
彼の周囲は雪で覆われ
爪の猛獣は
たしかにわたしのだいじな喉元をひと裂きしたのだが
(それが痛むのには時間がかかるこ
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