コメディ / ****'04/小野 一縷
夜に 耳の深い暗がりにだけ
思い出を周回して 帰ってくる木霊は鳴り響く
それは エコーの口先から零れた 一つの口笛
懐かしく 色付いた旋律の欠片
紅く錆びた蔓の絡んだ ブランコが
アイオンに艶を奪われたまま 真鍮の振子のように
鈍い輝きを宿して ただ無意味に 揺れている
罌粟の蕾に生えた微細な繊毛は やがて
白霧に弾けて散って この午後を微睡みの靄で包み込む
ダイダロスに置かれたままの 黄鉄鉱の髑髏
その鈍い黄金の沈黙は 二つの深い窪みに眼と輝いて
中空に記された時の迷路の ずっとずっと奥まで 見抜いている
赤褐色の煉瓦のアーチを取り巻く
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