●●●●の回帰/リンネ
 
ャツを着ているので、黄色を見ると必ずその子の顔が浮かんでしまう。そして、やはり私の名前は●●●●なのである。記憶は連想によって甦ってくる。さっきまで感じていた朦朧感が、蒸発するようにじわりと消えていく。おもむろにカギを挿して回してみると、今度は当たり前のように開いた。私は次第にはっきりとしていく意識で玄関に入った。黄色いTシャツが駆け足で家に入っていく。ふと、私は壁に掛かった絵画に目をやる。
 意識ははっきりとしている。記憶は連想によって甦ってくる。しかし、この絵は私の記憶に何も訴えかけてこない。だが無理もなかった、それはフレームだけの絵だったのだ。フレームがあるからそこに絵がある、というわけではないのである。
 「こっち、きて」家の奥で黄色いTシャツの子供が柔らかく手招いていた。私は招かれるまま、一歩一歩とその子の方へ近づきながら、今後自分にはもう何一つ蘇る記憶がないのではないかと、妙な気分に浸りつつあった。それはしかし、思いのほか不安ではなかった。




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