蠅車掌/(罧原堤)
よろこびにはちきれんばかりに、チアリーダーが嬉しそうにポンポンをふるようにイチョウ並木全体がゆれ動いている。その葉陰にハエが一匹ひそんでいても誰が気づくだろう。ハエには風によってイチョウの葉が揺らされているのではなく、イチョウの葉が動くことによって風がわきおこっているように思えていた。
ゆがんだ人間社会! ハエになってせいせいする! 空を飛ぶこともできる!
手をすりあわせ、沈む夕日を毎秒ごとめまぐるしく複眼をキョロキョロまわしては眺め、おそらく人間だった昨日なら、物憂げにタバコの煙をふかしながらであっただろう、ブルージーに、
「ハエだからだ……」手足を木の枝からはなしては目にもとまらぬ
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