ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
 
まに弾き間違えると若者が荒野で、「ああ! 神はいないのか!」と呻き、メロディカルな調べが続くと、「どうやらたすかったようだぜ、見ろよ、街だ。やっと休めるぜ」と、彼らの旅路が楽になった。やがてあたりが静まり返った。

   8  男は飛べる。いつだって、いつだって!

 その男は、小説を書こうと思ってペンをとったのだが…… 体が浮きだしていかんともしがたかった…… こころは浮き足だち落ち着かず、足は床から離れようとし、それに、これといった空想はなくただもう単に、いままで生きてきた31年間を振り返って、何か書こうとしていたのだが、さて、ペンを走らせようとするとどうも自分の人生において取るに足ら
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