単独行者の手記/草野大悟
 
るのだった。
 翌日には、実家の北方にあるふる里の山にふたりで登った。激しい運動の後のクールダウンにそれは似ていた。
 頂上近くに、墓地と白く輝く老健の大きな建物があるその山は、日本アルプスの山々に比べると、とても穏やかで、丘と呼んだ方がしっくりくる、そんな山だった。
 あなたは、緑色に輝く透明な光の中を、風のようにとびかい、昨日話そびれた思いをきらきらと話し、ぼくは、そんなあなたの息づかいと木々の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、過酷だった山行の疲れを溶かしていた。

 そこには秘密が待っていた。いつものように、いつもの場所に。
そこに着くと、秘密は、お帰り、と微笑みながらぼくの腕の中に飛び込んできた。
ぼくは、ただ黙ってそんな秘密を抱きしめた。

 そのころから今日までずっと、その山は、凪の日の海のようにふたりを包んでくれている。
あなたとふたりで登ることは、もう、二度と出来なくなったけれど。

 
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