足音/松本 卓也
 
じーじーじー
喚く歌が煩くてしょうがない
もしも手に届くところにあれば
躊躇無く握りつぶせるのに

きょむきょむと潜む足音
横になれば耳元に囁く証
生きているということが
死んでいくという自覚を植えつける

晴れない空が今日も告げる
価値観の途方も無い軽薄さ
誰とも誰達とも分かることは無く
小刻みな愚痴
見下す階級
会社で生きると言うことは
きっとそういうことだから

酒と夜の女に微かな救いを求めること
そんな馬鹿馬鹿しさを思い知っているつもり
最低の選択肢が示す行方の向こう側
一人ぼっちで枯れ果てた未来が転がっている

眩しい幼子の笑顔と
小刻みに振る小さなさよならの合図が
どれだけ行く末の悲しさを思い浮かべるの

まとわりつく蜘蛛の巣にもがきつつ
足音におびえる日常を否定する
独善にまみれた恐怖に嘘をつきながら
繋ぐ明日に生きる以上の意味を見出すこと

足音に耳を塞ぎ
虚空に妄想の筆を走らせながら
原色絵の具を撒き散らせる境界
踏み潰した犠牲の先に
まだ描ける要素があるのだろうか

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