「喪失」/ベンジャミン
水を飲む
何も知らない、無垢な液体を
わたしの、からだへ流し込む
そうやって満たされるものなんて
本当は存在しないことを
知って、いたけれど
さようなら
と、呟いて飲む
冷たい衝撃が、からだの中心で
音もたてずに暴れている
わたしは、嘔吐する
ごめんなさい
と、呟いて
きっと、わたしは飽和している
この蒸し暑い夜のせいでなく
自分という世界の中で
大切なものは
過去、にしたからでしょうか
これからも生きてゆく
わたしに、
コップ一杯の水さえも
このからだは拒もうとする
それを、喪失と呼ぶなら
わたしは、もう泣くこともない
そんな、きれいなものは
もう残っていない
ごめんなさい
透明な水、
わたしの中に入ってこれない
もしかしたら、やさしく
あたためてあげられたかもしれない
そんな見えない、未来を
わたしは、氷にして
噛み砕く}
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