雨の唄を聴け/灯兎
 
いるようだった

いよいよ強くなり始めた雨に いまさら叫びたくなった
今なら聞こえないと 今なら届かないと
そう分かっているからこそ 今しかないと思う
けれど 言葉は舌に乗るまえに溶けて 酸味を残していく

空は変わらず黒くて 僕を押し込めようとしている
それでもいい どうせ何も残ってやしないし 何をできるわけでもない
思うけれど 傘を手放すことはできない
靴だって まだ新品みたいだし 
こうして歩き続ける僕は やっぱり滑稽なんだろうか

ずっと抱え込んだ言葉が重くて 足が鈍りそうになる
誰にも与えられず 誰にも持っていかれず
大事にしてきたそれは 熟すときを忘れた果物みたいで
僕の中でいやな匂いを出している

いっそ叫んでしまえばよかったのだろう
たとえその言葉が 何を乗せていなくても 何を映していなくても
たった一言
君のことを 殺してしまいたかったのだと 

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