すきとおる/あ。
 
桜に混じって散り始めた朝も
川面を滑る鴨たちの口ばしも
濁さないほどそっと静かに
重ねた手のひらからさらさらと
留まることなくこぼれて落ちる


喉元がとくとくと同じリズムを刻む
指の腹で少し押して確かめてみる
わたしは今、生きている
とくとくと、変わらない速さで


からだの先から消えてゆく、どんどん
何も変わらない、変わらない
目にうつる全部はひとつぶだって
増えることも減ることもない



   (でもきっときみは、泣くでしょう?)



無情な美しさに入り込むには感情を持ちすぎていて
透き通ることでしか折り合いをつけられなかった
溶けきれずに残った爪の欠片は大気に絡みつき
ざらざらと引っかき傷を増やしてゆく



   (きみの呼吸が熱かったら、飽和量は増える?)



透けて溶けて平らなひとつになったわたしは
誰にだって気付かれないし描かれない


透き、通り
握った激情、で
きみに、傷を付けた

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