くちなしの/木屋 亞万
 
響かせようと身体の底から
吐き出される息

肺は息継ぎを要求して苦しげに
短く風を呼ぶ

音を立てぬよう注意しながら
リズムに乗る彼女の

髪は後ろで結われていて
後れ毛だけがわずかに揺れる

額を伝う汗は
ただ静かに

脇の机に置かれたペットボトルの水
小刻みに波紋を起こす

「て」の所で舌が押し出す白い飴玉

「う」にすぼめられた細いさざ波

「た行」は踊る、たてとた、ちちつた。とったち、たてた

「は」「あ」で空へと吹き上げられていく天井

言葉は、彼女の口の中で洗濯され
ギターの風に乾かされていく

部屋は、言葉と想像の両翼に押し広げられ羽ばたいていく
花の名前が出るたびに、芳しい花弁の開く気配 


やさしい声でさびしい詩を歌う
いったいどのような表情で。
目を開いて隣を見ても
そこにはいつもの空間があるだけ

目を閉じている方が
孤独の紛れるときもある
ヘッドフォンは独りの味方
四分間は蜜の中

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