ブリキと赤とんぼ/しろう
 


春に迷い込んだ赤とんぼが
ゼンマイをキリキリとうたわせた
ブリキのおもちゃのその中の
ブリキでできた心臓の

あんまりとんぼが赤かったから
ブリキはとんぼに恋をした
おもちゃであることを忘れてしまって
「自分も飛べる」とゼンマイを巻き


歯車が欠けないうちに
つかまえておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと

もうすぐ言葉を忘れてしまう
ゼンマイは巻きすぎて切れてしまった
廃墟に不時着したならば
雨にブリキは朽ちてゆくだろう


言葉を忘れてしまう前に
うたっておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと

春にひとりきりで誰も呼ぶはずのなかった
赤とんぼのその名を
廃墟に生えた草が濡れるまで
ブリキはうたった





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