ブリキと赤とんぼ/しろう
春に迷い込んだ赤とんぼが
ゼンマイをキリキリとうたわせた
ブリキのおもちゃのその中の
ブリキでできた心臓の
あんまりとんぼが赤かったから
ブリキはとんぼに恋をした
おもちゃであることを忘れてしまって
「自分も飛べる」とゼンマイを巻き
歯車が欠けないうちに
つかまえておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと
もうすぐ言葉を忘れてしまう
ゼンマイは巻きすぎて切れてしまった
廃墟に不時着したならば
雨にブリキは朽ちてゆくだろう
言葉を忘れてしまう前に
うたっておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと
春にひとりきりで誰も呼ぶはずのなかった
赤とんぼのその名を
廃墟に生えた草が濡れるまで
ブリキはうたった
戻る 編 削 Point(11)