春の或る日、植物園にて/あ。
 

■チューリップ


包むように咲く花びらは
遠いむかしにわたしの頬を覆った
大きくて暖かな手のひらに似ていた


誰のものだったかは
もうとっくに忘れた


中に隠れているのは


色彩の
季節の
記憶の
感情の
日常の


いつかどこかに根を下ろす
種子



■三色すみれ


単色でいられる潔さがないから
色を増やすことでごまかそうとした
きれいな色を加えるほどに
どんどん野暮ったくなってゆくのに
気付いてたって止められなかった


きみは
とりとめがないのに美しくて
何処にいたって目をひいて


柔らかな
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