鳴子沈夢 / ****'01/小野 一縷
一つも 無かった
沈む都度 ぼくが置いたのだ 目印に 逃走の経路に
そうして ほら 逃げたろう?
何度も 当然と 帰るように
息を継ぐように 自然と 意識を手繰って
ほら 悔いながら
逃避距離 飛び去る 放棄 開放と純真 慈愛 せめて 聴いていろ
絶え間無く 発生し 絡み 入組む 逆路を 駆け 離反する 一現象の
乱雑な 滑走の くぐもった 残響を
黒く掠れだした鐘音は 低く煤けた夕闇を振り乱して 駆け上がり
ゆっくりと 空ろに 引き込まれる あらゆる気体の 過ぎゆく時間の
色素が攪拌される 沼の色は やがて熟して藍色に
薄汚れた寝床の上に 胎児のように 渦巻いてゆくだろう
胸は涙の熱さだ
仮の死の 間際の
暖かい
今こそ 黙示を
藍色に 生まれくる
ぼくという 在り方よ
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