大庭園/片野晃司
道すがら
木陰の苔の上へ子を産み落とし
それらが成長して
わたしたちは少年であり少女であり
わたしたちはあまくやわらかな皮膚につつまれてみずみずしく
猛禽にとっては格好の餌であった
わたしたちは
たやすくその白い皮膚を脱ぎ捨て
捕食の歓びとともに舞い上がり
猛禽の血となり肉となり
その広大な庭園の一角を眺めることができた
川に入れば魚の餌となって海へ下ることもできた
獣の肉となって遠くまで駆けることも
地に腐り巨樹となって森を見渡すこともできた
そうした快楽の繰り返しの先に
ひとがけっして生き抜くことのできぬ季節があり
わたしたちすべてが
わたしたちをかたちづくる粒子ひとつひとつが散逸し
愛するひとも親も子も兄弟もわからなくなり
それはそういうしくみなのだった
その季節のあとで
わたしたちはまた出会いなおし
わたしたちは少年であり少女であり
ひとがけっして生き抜くことのできぬ季節があり
その季節の先にもさらにこの庭園は続いているのだった
(詩誌「ガニメデ」vol.44 2008年12月)
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