耳の中/salco
いるよ、アミーゴよ
地球よい星
あなた良い人。
弐;
この原子力発電の時代に毎日、
いつものピンセットで耳をほじくる。
その先端に引っかかる物を総て
つまみ出しかき出し
耳あかもカサブタも滲出液もほじくり出して
とうとう鼓膜を突き破り
涙を流しながらも内耳を突き進み
やがて脳へ突き刺さると
突然宇宙の只中の
そこは月面の上である。
私は無音のカンタータを聴く
けれど作曲活動は出来ない
私は孤独の猿なのだ、それでも
スーツケースは持って来てある
四十億年の荒涼の果てに連なる
足元の砂れきに置いたその中には
誕生日用のロウソクが一本と、
退屈が詰まっている。
それでも時間は閉じ込め得ず
太陽が再びあの巨大な水の惑星の際に現れるや
既に私は老婆となっている事だろう
さりとて他にやる事も無いので
ひねもすピンセットで穴掘りだ
すると再び地上に出
彼方で誰かのHELLOと言う声がする
穴の出口に立った頃には既に声の主は無く
私はただぼんやりと座って待つ
耳をさかんにほじくりながら
穴から石油が噴出するのを夢見ている。
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