ミシン/あ。
 
母が愛用していた足踏みミシンは
居間の隅っこを定位置にしていた
毎日使っていたわけではないが
学校で雑巾を持って来いなんて言われると
その夜はかたかたと音を立てていた


ミシンは
物心ついたときから定位置を変えず
物心ついたときから明らかに年代ものだった
母の母から譲り受けたというそれは
コマーシャルでよく見る電動ミシンとは違い
黒に近い茶色の身体をしていたし
動きはお世辞にも軽やかとは言えず不規則で
しょっちゅうどこかが故障していた


母は裁縫が得意だったし好きだったから
ミシンを使っていろいろなものを作った
習字教室に行くカバンはキルティングの花柄で
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