方舟のなか、壁にもたれて僕は/汐見ハル
 
晩餐(ばんさん)など絶えて久しい
誰もが膝を抱えてうずくまった夜に僕は
屋根の隙間から星を見あげてた
あかい、涙みたいにうるんだ一粒に
名前をつけようとしたとき

父さんが僕の髪をくしゃりとなぜて
後ろから覆いかぶさるようにして
口を
ふさごうとするのだとわかったから
霜だらけの指にかみついた
鉄の味
少し苦くて
あたたかいもの
腕の力がゆるんで
父さんが崩れた
お前は神様に選ばれなかったので
この方舟(はこぶね)には乗せられない
ゆるしておくれ、と
ぐずぐずに崩れながら父さんは僕の肩を押した
視線だけで振り返ると、母さんが
きょうだい達にキス
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