記憶の感覚/空都
あなたがそんなに楽しそうに笑ったら
この長い旅路は
すぐに終わってしまいそうで。
そんなことを考えながら
嗚咽をこらえていた私に
あなたは気付いていましたか。
私とあなたの衣擦れの音や
歩くときの息遣い
地面をける靴の音
無邪気な笑い声や
支えてくれた腕と指
そして
私をふわりと降ろして遠くなる薄い背中。
あなたに背負ってもらった記憶は
今ではもう、うすい靄のかかった
曖昧なものでしかないけれど、
そのなかで
それらは私の大事な感覚として
今でも鮮明に残っています。
目覚めたとき
街を歩いているとき
眠っているとき
そっくりな感覚に出会う度に
また本物では無かった、と
泣きだしたくなる私はどうしたらいいのですか。
もう二度と忘れることはない
あの人に
もう二度と忘れることはできない
あの人に
私の想いを伝えるすべは
残されてはいません。
それでも、
会いたい
聴きたい
触りたい
と思うのは
私の我が儘なのでしょうか。
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