遠回りした夜/砂木
 
湧く会場で
先ほどの救急車のことを思い出す
数年前 私も乗っていた
あの時 手を握って暖めてくれた
救急隊員の真剣な顔
呼吸が楽になると 笑顔になった顔

余興のプレゼントの抽選がはじまり
私の番号は呼ばれない
少し 借りを返せたかな
今ここで楽しんでいる以上の幸運は
身に余る幸せなのだろう
デビューすることなく消えた日々

アンコールでは たたみ掛けるように
軽快な曲が会場を盛り上げて
観客は拍手を惜しみなく送った
来年も是非いらしてくださいと挨拶がある
楽団員が舞台から降りていく
観客も家路につく

サイレンと演奏が 赤信号を走った夜
歌っているのは誰だろう



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