●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●/ひとなつ
「雲がなければ何か見えたのか?」と聞かれれば
私は戸惑うことしか出来なかっただろう。
それくらい私の人生は見通しが悪かったからだ。
目をつむりたくなるほどに…
私にとって睡魔は目を強制的に閉じてくれる善良な悪魔だった。
今はただ眠りたい。
しかし私が後ろの人に気を使いながら
リクライニングをミリ単位で調節し
ようやく眠ろうとしていたとき、
スチュワーデスが言った。
「お客様の中に“いなくていい人”はいらっしゃいませんか?」
乗客たちは、
ヘッドホンで音楽を聴き、
ポリンキーを頬張り、
トラベルガイドブックのシャガールの絵に夢中で
アナウンスなんてまるで知らんぷりだった。
私も彼らと同じように
知らんぷりで上手くごまかせれば良かったが、
あいにく、いつもの“一人トランプ”は荷物と一緒に預けてしまっていた。
私はどうしようもなくなり、ゆっくりと立ち上がり、手を挙げて言った。
私が“いなくていい人”です。と
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