静けさが降る/かんな
 
が病院から退院し
二年半ぶりのことで
そしてわたしがアパートを引き払って戻った
それまでは父と祖父と祖母
父はいつも正面を向いている
そんな人だから
祖父と祖母はきっと
眩しくて向き合えなかったんだろう
そっぽを向くのが得意だから

そうやって二人増えて
家にほんの少しだけ明るさが戻った
ようにおもえている
軋んでいる柱の音も
なめらかなメロディに聞こえる
それでもたまにこうやって
家には静けさが降っているときがある
いま家族は
どこを向いているんだろう

そんなときわたしは台所に立つ
大してうまい料理が作れるわけではない
それでも時計の針が十二時をさせば
台所には家族があつまる
五人とも大してうまくない料理をはさんで向き合う
でもそんな瞬間がわたしにはあたたかい
だから雨を眺めながら献立を考える

静けさが止むのを待ちながら


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